Interview

vol.07 岸野 真生子(イラストレーター)

岸野 真生子(イラストレーター)

岸野 真生子 Maikiko Kishino
1986年生まれ。東京都在住。文化女子大学で服飾を学びながら、服作りよりもデザイン画に惹かれ、絵を描き始める。2007年にはdigmeoutオーディションを通過。リアルかつ繊細な描写で、若者の日常にあるノスタルジーな空気を描く。古川日出男著「ハル、ハル、ハル」の挿画を手がけ、その後も企業・テレビ・イベントなど幅広くコラボレーションをし、活動を広げている。
website:http://www.makikokishino.net/(リニューアルオープン!)

「表現」でお金を得ること。
多くの人が憧れて、葛藤して、諦めていくその生き方。

プロの表現者が存在し、それぞれが食べていくことができた時代は
20世紀と共に終わった、と言う人がいます。
世の中で必要とされている「表現」の絶対的な量は変わらず、
新しいメディアを駆使した無数のアマチュアが、その「表現」のピースを埋めていく。

そんな現代において「表現」を仕事として選んだ人は、一体どのような未来を見ているのだろうか。

今回のインタビューは、イラストレーターの岸野真生子さんです。

「digmeout」というアーティスト発掘プロジェクトのオーディションを通過後、出版物・イベント・番組など様々なメディアへイラストを提供しています。
直近では、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が編集長を務める「THE FUTURE TIMES」の創刊号表紙で彼女の絵を見ることができます。

少しずつ、着実に仕事の幅を広げている彼女。
イラストレーターとして生活するようになるまでに、一体どのようなことをしてきたのか。
また、仕事としての「表現」と、どのように向き合っているのだろうか。
「表現」を「生活の糧」としようとする彼女の姿を追うため、吉祥寺の喫茶店へ向かいました。

ファッションというもの自体がだんだん嫌になっていってしまった。

━━ 絵を描きはじめたのはいつだったんですか?

実は、ちゃんと描きはじめたのがごく最近で、大学入ってからなんです。

━━ えっっ。そうなんですか。

小学校の時も絵を描くのはすごく好きだったんですが、小学生の「絵が好き」ってたかが知れてるじゃないですか。自由帳なんてみんな持っていたし、うまい子なんてワンサカいる。そういう感じで絵を描くのは好きだったです。それから中高に進むと、そこが美術に強い学校で、受験のときもパンのデッサンがあったりして。

━━ それは美術系の学校というわけではないんですか?

そうですね、普通の学校だったんですけど、なぜかデッサンの試験があって。そんな学校へ行ったもんだから、みんなセンスが良くて「自分の世界」をしっかり持っている人が多かったんです。それで「もう、絵が好きとか言えない」ってなりました(笑)。

━━ もともと絵が好きで、その学校を受けたんですか?

いえ、たまたまですね。姉が行ってたので「お姉ちゃんと同じとこ行きたい~!」みたいな感じです。すっごく自由な校風だったので、みんなピアス空けていたり、服装も自由でした。

━━ あぁ良いですね(笑)。

でもそれで、絵を描くことを「向いてないな」って思うようになったんですね。なので別に、絵には中高の間ほとんど触れず、まったく描いていませんでした。音楽か美術を選択するときには「音楽のテストがイヤ」という理由だけで、美術を選択して美術史なんかも勉強しましたけど、とくに惹かれることもなく。

━━ その時は違うものを志向していたんですか?

自分が得意とするものとか、発信していくようなことは、当時はまったく無かったです。中高も帰宅部でした。本当になにも無かったので、得意なことがある人たちを見て…「いいな」と思っていましたね。

━━ そうだったんですか。

たとえば「英語がすごくよく出来る」とか「部活もスポーツもやっている」とか、写真部とか。そういう人たちを見て「すごいな、私はなんにも無いな」って。でも感受性みたいなものは、やたら出てきて、その頃からロックとかを聴くようになりました。「すごい!!!」と思って、そういうことだけはとてもよく話すようになりました。「あのバンドがヤバい!」という感じで。すべて「受け身」でしたね(笑)。だから、自分から何かやる、というのは…

━━ そのときはそういう自発的な活動はまったく行なっていなかったんですね。

そうですね。で、高校3年のときに被服の授業があったんです。もともと図工とか手を動かすことは好きだったので、被服でミシンを踏んでるうちに「服を作るのって楽しい!」と思うようになりました。それで、服飾の大学へ行くことにしたんです。

━━ あ、服飾の大学に行かれたんですか。

はい、文化女子大学という大学なんですけど。それで「服つくるぞ!」という気で行ったんですけど、授業を受け始めたら、ファッションの歴史とかトレンド調査のような授業が多くて、もともと流行りが嫌いだったので。

━━ 「トレンドってなんやねん!」みたいに(笑)?

そうなんです。「自分の意志はないのか!」みたいな感じで(笑)。

━━ 良いですね(笑)。

友達と話していても「今この色が流行ってるけど、この色のストール来年も巻けるかな?」という話になるんですけど、私は「好きな色巻けば良いじゃん!」って思って(笑)。長く気に入って使えるもののほうが絶対に良いと思っていて、ファッションというもの自体がだんだん嫌になっていってしまったんです。

━━ なるほど。

服だけじゃなくて、なんでも「ファッション化」していくじゃないですか。音楽もそうですし。

━━ そうですね。「当たる音楽」ばかり気にして、そういう視点でミュージシャンに路線を指定して曲を作らせるレコード会社も以前はよくあったと聞きますし。

聴く側も「これを聴いていたら格好良い」とか。そういう聴き方になってしまう人も居るかと思うんですけど、「馬鹿じゃないの!!」なんて思ってしまって(笑)。

━━ ははははは(笑)。

なんかもっと熱くなろうよ!っていう(笑)。

━━ どんな音楽を当時はよく聴いていたんですか?

バンドが多かったですね。ひとりでやることって、簡単じゃないですか。全然違う人たちが、音だけで信頼し合っているというカタチが、もう「凄いな!」って感動してしまって、どうしてもバンドに惹かれます。高校のときに出会って衝撃だったのが、怒髪天で。あとTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとか。

━━ あ、怒髪天が好きなんですか。

あとは、ジャニーズがすごく好きなんです。「アツいよあの人たち!」と思って。顔がどうこうって言うよりかは…。

━━ 逆サイドですが、僕はAKB好きでよく見てたので、分かります(笑)。

ははは(笑)。ジャニーズとかAKBって、きっとその「自分のポジション」があると思うんですよ。美人とかイケメンの子が目立つけど、「私は歌で勝負するんだ」とか「自分はバラエティだ」みたいに、それぞれのところですごく頑張っているところが、格好良いなと思って(笑)。だから、顔だけでドラマにたくさん出ているような人は嫌いで。

━━ そうなんですか(笑)。

「なんだよっ」て(笑)。

━━ バンドとか、そういう「集団」が生み出すものと、その中の一人ひとりの思いみたいな部分が好きなんですね?

そうですね(笑)。ソロの人とかはあまり聴かないですね。

━━ たしかに、ミラクルですよね。集合体でひとつの物を作り出すことって。

凄いですよね。だから、たとえばソロで音楽をやっていて、バックバンドが曲毎やアルバム毎に変わる人って居るじゃないですか。それはそれで凄いと思うんですけど、何十年も同じメンバーでやっていることのほうが「なんて素晴らしいんだろう」って(笑)。カッコいいなって思いますね。

だんだんと「人に見せる」ということが大事だと気づいてきて、でもやっぱり恥ずかしくて…(笑)。

━━ ファッションのトレンドの話に戻りますが、服飾に進まれて、ファッションを追い求める勉強のスタイルに嫌気が指していた中、どのようにして「絵を描く」ことに辿り着いたんでしょうか?

必修科目で、デザイン画を描く授業があったんですよ。それで「絵を描くって楽しいな」と思うようになって。デザイナーコースというのがあって、ファッションショーも行なう学校だったので、デザイン画はまずきちんと描けないといけなかったんです。8頭身のモデル体系の女性を描くんですけど、授業が始まる前はとても不安だったんです。でも、やり始めたら「楽しい!」みたいになって。

━━ それで絵が好きになっていったと。

ある授業で先生から「ひとり一冊スケッチブックを持ち歩きなさい。服以外でもいいから、気になったものはデッサンしたり、描き留めて、自分だけのノートを作りましょう」と言われて、スケッチブックの「正しい使い方」のようなものを教えてもらったんです。昔はただ「持っているだけのもの」としてスケッチブックを捉えていたんですけど、そういう「閃いたときに描いて、アイデアを貯めていく場所」だということが分かって、急に楽しく思えてきて、のめり込んでいきました。講義もろくに聞かず、ずっとスケッチブックに色々描いていました。そして、だんだんと「服」よりも「人を描く」ことが良いなと思うようになって、いつのまにか…。

━━ 絵の世界にどっぷりと入り込んでいったんですね。

そうですね。イラストの先生も、すごくよく見てくださって。
文化祭で大きなデザイン画を飾る企画があって、やりたい人を募集していたんですね。その時は、周りに絵の上手い子もいっぱい居たし、恥ずかしくて、自信も無かったから、やってみたいけど「まぁいいや」と思ってたんです。でもその先生が「絵描くの好きでしょ?」って声かけてくださって。自分ではとくに何も言っていなかったんですけど、「いつも真剣な目で授業受けてるから」と言ってくださったんです。そして、絵のコンペとかを色々勧めてくださって、どんどん自分でも見せに行くようになりました。
それで、服を作る勉強の先生より、絵を描く先生の方とどんどん仲良くなっていって(笑)。

━━ ははは(笑)。でも、自然とそういう方向に変わっていったんですね。

そうですね。本当に、出会う人出会う人、運が良かったことが大きいですね。芸術系の先生だと自分の好みに寄せようとする先生も多いんですけど、最初に受け持ってくださった先生は、その人のやり方を伸ばす、というやり方の先生だったんです。それが本当にラッキーだったなと思っています。その先生に出会ってなかったら、今は無かったと思うので。

━━ そんな流れで、出会った先生に後押しされて、絵をどんどん描くようになっていって、色んなところへも出すようになったと…。

いつ思ったのかよく覚えていないんですけど、「イラストレーターってすごく良いな」って思うようになって。業界のことなどまったく知らなかったし、何をどうすれば良いのかが全然分からなくて。でもだんだんと「人に見せる」ということが大事だと気づいてきて、でもやっぱり恥ずかしくて…(笑)。

━━ その「恥ずかしい」という気持ちは、ずっとしぶとくあったんですね(笑)。

そうですね(笑)。なかなか自信を持てなかったんですけど、「そんな他の人が全部見ているかなんて分からないし、出すだけ出してみればいいやー!」みたいな気持ちで。

「話す」より一発で自分の核の部分に近づいてもらえる。

━━ えいやー!っと。そして応募したのが、現在所属しているdigmeoutですね。digmeoutはどんな組織なんですか?

もともとはFM802がタイムテーブルの表紙を描くアーティストを募集する企画だったんですけど、それがどんどん広がって。大きくなるにつれて、企業とのコラボレーションが増えていって、銀行のカードやドナーカードとか色々な企業と企画をやっているんです。

━━ digmeoutを、もともと知ってらっしゃったんですか?

そうですね。digmeoutは、けっこう好きなイラストレーターさんが多く所属していたので、前から少し知っていて。やっぱりラジオ局がやってるプロジェクトなので、音楽との繋がりがすごく強いんですね。それが「良いな」と思ってました。好きなイラストレーターが居るし、「ラジオ→音楽!こんな良いとこ無いじゃん!!」みたいになって。それで大学3年の頃に、ダメもとで送ってみようと。軽い気持ちで。

━━ 一発で通ったんですか?

「コンペ」としては2回目だったんですけど、digmeoutは一発で、忘れてるころに電話がかかってきて「合格です」って。「えっっっ!うそーーー!」みたいになって(笑)。そのあと、通過者13~4名の展示が大阪と東京で開催されたんですね。そんな展示なんてやったことないし、意味が分からなかったんです。額も持っていないし、そもそも額の入れ方も分かっていなかったです。最初の打ち合わせで「これだけのスペースが与えるから、どういう風にやりたいか考えてきて!次の打ち合わせまでに。」と言われて、「え~~~!何もわからない、どうしよ~!」と。でも必死に提案しました。前の展示の風景とかをみて、考えて、提案を持っていって。派手にやってもらいました(笑)。

━━ その経験が、絵を描くことに対する考えを大きく変えていったんでしょうか?

なんか、怖かったですね。そんなに腹をくくってやり始めたわけでもなかったので。まず誰かに見てもらおう、というくらいだったので。「意見をもらえたらラッキーだな」くらいだったんです。でも、なにか動き出してしまった。

━━ そこまで想定していなかったのに、すごい勢いで事が進み始めたと。

そうですね。「次、打ち合わせ、大阪だから」なんて言われて。

━━ 「楽しい」というよりかは「怖かった」んですか?

怖かったですね。すっごく怖くて、「どうしようどうしよう」となってました。大学の卒業制作と時期も重なって、ただひたすら急に忙しくなって。でも、本当にありがたい事に、オーディションを通過してからすぐにお仕事をいただけて。しかもそれが装丁のお仕事で、古川日出男さんの『ハル、ハル、ハル』という本だったんです。急に出版社の方からメールが来て、最初は意味がまったく分からなくて。すぐにdigmeoutの人に電話をして、「どうしましょう!?」と。で、間に立っていただいて、無事進めさせていただきました。本当に怖かったです(笑)。

━━ いまだに怖いですか?

描くこと自体は楽しいです。「こんな使い方をしてもらえるんだ!」という感動がどんどん増えていって、自分だけだと分からないような部分を見てもらえるのが嬉しいです。

━━ 他の人が介在してくると、自分の「絵を描く」ということを客観的に知ることができて、刺激的でしょうね。

そうですね。感動がいつもあります。プレッシャーはどんどん上がっていきますけど(笑)。

━━ なるほど。

前の作品を褒めてもらえると、「それを越えなきゃいけない」という気持ちが出てきて。本当に有り難いことなんですけど、それが毎回怖いです。越えられなかったら、次で終わりなんじゃないかと。どうしようどうしようって。

━━ 「ものづくり」とか表現って、否応がなしに「自分と向き合う」じゃないですか。特にひとりで表現をしている人だと尚更だと思うのですが、岸野さんはそういう「内への葛藤」もあるんですか?

作業自体は楽しいんですけど、そのアイデアが出るまでは結構「どうしよう…」となってます。

━━ 常に作品のアイデアについて考えをめぐらせてるんですか?

全然そうでもなくて、普段はどんどん考えなくなってきていますね。学生の頃は「描きたいもの」を持っていたんですけど、最近はどんどん無くなっていって。でも、ふとした瞬間に「コレ描きたい!」と閃くようになりました。というか、私、妄想がすごく好きなんです。

━━ 妄想ですか(笑)。

電車から景色を見ていても、すごく好きなタイプのアパートがあったとしたら「こういう人が住んでるんだろうな」という風に妄想するんです。気持ち悪いんですけど、干してある洗濯物を見て「ああいう人だろうなぁ…」とか(笑)。勝手にストーリーを作っていくんです。

━━ 面白いですね。ストーリーまで作っていくんですか(笑)?

「彼女はいくつくらいの子で」とか(笑)。絵では全部描かないんですけど、どの絵も「前後」があるんですよ。例えば「この女の子は運動部で、この男の子は部活やってなくていつも図書館で帰りを待ってて、とにかくよく寝る」とか。

━━ すごい、そこまでストーリーがあるんですね。普段から面白いもの見つけたら、そうやって頭の中で広げていくんですね。

そうです。勝手に楽しんでます(笑)。道ゆく人から勝手に拝借してたりします。気づかない間に、すごく見てしまっているみたいで。

━━ 絵を描ける人って、自分の手で世界を表現できるじゃないですか。だから、世界の見え方がちょっと違うんじゃないかなって思ってるんですけど。

そんな芸術派でもないですよ(笑)。使命感を感じて絵を描いている人もいらっしゃるし。「表現するために生まれてきた」と言う人ですよね、そういう人のことを私は「頭のなかどうなってるんだろう??」って、考えていることがとても不思議に思いますね。私は「楽しい」という気持ちだけで始めているので、「表現をひたすらしたくて、その手段がたまたま絵だった」みたいなカッコいいタイプではないです(笑)。「表現」より「作る」が好き、というところから始まってるので。

━━ そうなんですね。深読みしすぎました(笑)。

でも、だんだんと「コミュニケーション取れるひとつの手段」だと、あとから思うようにはなりました。

━━ 「コミュニケーション取れるひとつの手段」とは?

実体験とかは全く無いんですけど、「こういうときにグッとくる」というのは絵の中に多分入っているんです。だから、絵を見ていただいて「こういう風に感じた」と言ってもらえるのが、「話す」より一発で自分の核の部分に近づいてもらえる気がしています。恥ずかしいんですけど、「こんな風に考えているのか」ということになるので。話す以外に自分を分かってもらえる手段だと思うようになりました。

━━ ものを作ってカタチにすると、それを通じたコミュニケーションが取れるんですね。

男の子と女の子の絵が多いので、「かわいい」というような印象を話してくださる方も居ますし、「こういうこと考えてるでしょ」「こいつ、性格悪いな」とか見透かしてくれる人も居て、それが面白くて。

━━ 面白いですね。

それが良いなって思いますね。だから「表現」に重きを置く人たちは、そういうことを感じているのかなと、少しだけ思うようになりました。

「人間的に」魅力的な女の子を描くのは、苦手だと思っています。

━━ 今のイラストのスタイルは、どうやって作り上げられたんですか?

画材は大学時代に使っていたものから何も変わっていないですね。大学の課題では、必ず色をつけないといけないんですが、色のセンスがあまりなくて(笑)。塗る前のほうがかっこよかったな、と思うことが多かったんですね。でも「ここは色をつけたい」とはっきりと見える部分もあって、そこだけ塗っていたら、周りからそれが良いと言ってもらえて。

━━ 人は基本的にモノクロで、物質的なものへ部分的に色を使われてますよね。

たとえば、「このベンチはぜったい青じゃなきゃいやだ!」というのがあって(笑)、ぜったいそれだけは分かって欲しいときにだけ色を塗りますね。ただ、自分の中ではどれも色がついているんです。でも全部塗ると意味を持たなくなってしまう感じがして。ただ、今となってはこれが特長のようになっているので、「どっか塗らなきゃ!」とすごく探す時がたまにありますね(笑)。

━━ たまたまやってたものが決まり事になってしまったんですね。

自分が思っている以上に、意味を持ち始めてしまって。

━━ 高校生の男女を書くことも、何か理由はあるんですか?

本当のおおもとは、「それしか描けない」ということなんですけど、一番最初はデザイン画で若い女性を描いていたので。まず顔の描き方については、若い女性しか知らなくて。で、何年か経った後に、男性の描き方も習ったんですけど、やっぱり若い男性しか描いていなくて。別に男女じゃなければいけない訳ではないんですけど、一番分かりやすく対比できるというか。男女の絵を描いているけど、こういうときのこういう感情って、別に対「友達」とか対「モノ」とか対「親」でもあるよなっていうのが多くて。表面的に見ると爽やかで切ない感じとかあると思うんですけど、別にそういう爽やかさや切なさを描きたいというよりも、「こういう気持ちあるよね」という感じ。そういうギリギリな感情を表すのに、高校生が一番良かったというのはありますかね。自分をまだ分かっていないときって、大人になってもあると思うんですけど、でも高校生って、気分的な問題だけじゃなくてずっとそういう時期だったりするじゃないですか。そういう気持ちを表すのに、高校生が一番しっくり来たんですよね。なんか難しいですけど。はかないじゃないですか、絶対大人になっちゃう。自分では大人ぶってるけど、全然まだ子供だし。今まで描いてきた子達は、そういうグラグラしたものをみんな持っていて。というのも、描き続けてきて最近になって分かったことではあるんですけどね。

━━ 基本的にみんな笑ってないですよね。

笑ってないですね(笑)。そんなに楽しいことばかりじゃないじゃん!って(笑)。もちろん笑っている子を描く時もありますし、大学で勉強したファッションイラストってそういうものだと思うんですけど、女性とかに向けた分かりやすいビジュアルですよね。可愛くて、誰にでも好かれるような女の子、トレンドを身につけているきれいな女性とか。そこが習い始めた根本なのに、どんどんと暗いほうへ暗いほうへ行っちゃって(笑)。でもそっちのほうが描いていてしっくり来ていたんですよね。

━━ ファッションイラストって、たしかに女の人が綺麗に格好良くすらっと立っている絵が多いですよね。

そうなんですよね。それも最初はすごく楽しかったんです。

━━ 最初はそういう風に描いていたんですか?

そうなんです。色んな服描けるし、服の構造も勉強できるし。すごく面白かったんです。でも、だんだんと「そんな笑ってばっかじゃないでしょ」みたいな(笑)。なんか妙にリアルなところが出てきて。

━━ 良いですね。なんだか先ほどのロックを好んで聞いている感情と共通していますね。

そうですね(笑)。そこからだんだんおかしな方向へ行って、「女じゃないぞ」と。男の子を描くほうがすごく楽しくて、しっくり来るんですよね。だから指定が無い限り、男の子を描くようにしていますね。映画とか小説とか見ていても、男の主人公のほうが感情移入ができるんですよ、何故か。

━━ え、そうなんですか。

女の子の主人公って、やっぱり恋愛ものが多かったり、居るだけで様になる。何をやっても可愛いじゃないですか。いわゆるガーリーな可愛い格好していたらもちろん可愛いし、ボーイッシュでも可愛いし(笑)。ロック系の服来ても、可愛い。でもそういうのがポーズにしか見えなくて。でも男の子って、コンバースにジーパンできったないトレーナー来ていて、別に綺麗な顔じゃなくても、なんかこう引寄せるものがある気がするんです。ファッションとかポーズに捉われない魅力があるなって思って、そっちのほうがしっくり来るんですよね。

━━ 男性だと見た目の格好良さに関係なく、色んな俳優さんが主役になるけれど、女性だと主役になるのは綺麗であることが前提になっていることが多いのは確かにあるかもしれないですね。

そうなんですよね。男の人って色んな可能性がある気がしていて。女の子って「女性としての魅力」はいっぱいあると思うんですけど、「人間としての魅力」って男性より感じにくい気がするんです。自分がそういう風に受け取ってしまっているだけかもしれないんですけど、たぶんどこかで、「性」というものを男性よりも求められる存在な気がしていて。だから自分は、ファッションとかを抜きにして「人間的に」魅力的な女の子を描くのは、苦手だと思っています。といって、男の子のこともよく分からないのに(笑)。

最後まで出来上がったのを見るまでは、「本当に世に出るんだろうか?」っていう不安ばかり。

━━ 絵を描き始めてからのお話を伺っていると、次から次へとステップを踏んでいっていて、とにかく「順調」に物事が進んでいるように思うのですが、これまでで印象的だった仕事って何ですか?

MINAMI WHEEL」のポスターを描かせてもらったときは、本当に嬉しかったですね。大阪のライブハウスサーキットのようなイベントで、高校生の頃から知っていたんです。
お客さんとして「いつか行きたいな」と思っていて、好きなバンドもたくさん出ていたので「いいないいな大阪!」と思っていたら、仕事として「絵描いて。」という話になって。もう「わ~~!!うそだ~~~!!」って、仕事のテンションとは思えない大はしゃぎをしてしまいました(笑)。初めて「MINAMI WHEEL」に参戦したのが、自分の絵が入った時で、街中にいっぱいポスターが貼ってあるし、みんな絵の入ってるパスを持っていて、おんなじ音楽が好きなたくさんの人が自分の絵を手にしていることが、本当にうれしかったです。

━━ ん~それはすごい体験ですよね。他に、大変だった仕事などありましたか?

そうですね。この「恋時雨」はテレビのお仕事だったんですけど、音楽と小説とイラストのコラボレーション作品で、吉高由里子さんがそのストーリーを朗読するというものだったんです。
その中で、絵は紙芝居のような感じで場面場面に使われたんです。アニメーションまでは行かないんですけど、紙芝居のような感じでした。6組の作品で構成されていたんですけど、私は大橋トリオさんの楽曲の作品で使っていただいたんですね。これの製作期間がものすごくタイトで(笑)。

━━ あ、これたくさんの量のイラストが必要なんですね?

そうなんですよ。人物と背景を、全部別々に描かなければいけなくて、人も一枚の紙にひとつと決まっていて。

━━ 動かすためだったですか?

たぶん、そうだと思うんですけど。バラバラで描くのも初めての経験でしたし、描く量もなかなか多くて。挑戦的な意味では、この経験が本当に凄かったですね。この時の製作期間を思い出せば、もう何でも出来る!みたいな(笑)。

━━ もう、あらぬ力を…(笑)。

そう、すごくタイトで、そのとき何故か偏食になってしまって、ずっとナポリタンばっか食べてましたね(笑)。

━━ ははははは(笑)。それは偏食ですね(笑)。

もう全然外にも出ないし、大変でした(笑)。

━━ 具体的はどのくらいの枚数のイラストを描いたんですか?

うーん、60くらいですかね。

━━ えーーーー!!!それは多い。

で、なんか、やり直しとかもあったので、すごく時間はかかりましたね。そして、すごく良かったです。

━━ 「良かった」?

最初は断ろうかなと思ったんです。自分じゃ絶対できないって。でも、断ってしまったら、何も出来ないよなと思って。「迷惑かけるかもしれないけど、やります」と言って。

━━ その「やります」って言えたことが、格好良いですね。

いや~~~でもすごく怖かったですよ。全部そうなんですけど、ちゃんと完成形を見るまで不安で人に言えなくて。「今何の仕事してるの?」と聞かれても、ぼんやりした返答しか出来ないんですね。

━━ そこまで不安なんですか?

自分が、最後まで出来上がったのを見るまでは、「本当に世に出るんだろうか?」っていう気持ちがあって(笑)。もしかしたらボツになっちゃうかもって思って。だから仲の良い友達にも、全然仕事の話は出来ないんです。

バッ!と鷲掴みにされたり、グラッ!て揺さぶられたりするほうが、本当なんじゃないか。

━━ これから意識的にやろうとしていることってありますか?

紙以外の使い方、テキスタイルとか、そういう場で絵を使ってもらったりしてもらえればと思っています。それから、もう少し人物の幅は広げたいなと思いますね。おじちゃん・おばちゃん・子供とかも描けるようになれたら、もっと色々出来るのかなって思いますね。オリジナルの作品には、あまり登場させないかもしれないけど…。

━━ それでも使えるように、描けるようにはしたいと。

そうですね。なんでも描けたほうが、面白いのかなって。
でも「なんでも」と言ったら、何にも考えてないみたいですよね(笑)。

━━ いえいえ、そんなことないですよ(笑)。そしたら、「絶対に描きたくないもの」ってありますか?

描きたくないもの!?なんだろう!

━━ すごい変な質問で申し訳ないですけど。

好き嫌いは多いんですよね。

━━ 今日お話を聞いてきて、表面的なものとか偽りのものが嫌いだという印象があるんです。逆に、醜いものやグロテスクなものは、受け入れやすいんですか?

そうですね。本当に捻くれているんですけど、「見て!グロテスクでしょ!」みたいのも嫌なんですよね。本当にそれを必要としてやっているものは好きなんですけど、そこを変な「売り」のような気取った感じにしてしまうのは、あんまり好きではないですね。

━━ あぁ、本当に必要なときに、当たり前のように描く、と。

逆に「ここは、このグロとかエロを見せなきゃだめでしょ!」という時に隠してしまうのも嫌なんです。綺麗に綺麗に作ろうとして、避ける表現ですね。そういうものに対しては、「いやいや、要るでしょ」と思ったり。なんでしょうね、本当に自分でもよく分からないんですよね。でもどこかで、線引きみたいなものがあって。いつも理由がないんですよ、なんか良いと思ったら良いし、言葉で説明できるより、バッ!と鷲掴みにされたり、グラッ!て揺さぶられたりするほうが、本当なんじゃないかな、というのがあって。

━━ なるほど、その表現素敵ですね。なんと言うか「本当のことしか好きじゃない」ですよね。その「本当のこと」を決めているのは自分だから、「自分の感覚」というのを何よりも大事にしている、という印象を受けます。

気にしなきゃいけない時は馬鹿みたいに気にしてしまうんですけど、日常的なことは「なーんもそんなこと気にしなくて良いじゃん!」と妙に強気になりますね。はい。…考えてることを話すって難しいですね(笑)。

━━ ええ、難しいですよね、話すって(笑)。

こうなんだけど…、一番近い言葉が見つからないんですよ(笑)。

━━ でも、だからこそ絵を描き続けられているような気もしますけど。

それ、言われたんです先生に。周りの人にも言われて、そうなのかと。

━━ だからこそ、絵を通じて知り合えた人のことが気になるし、好きなんでしょうね。言葉で表せない気持ちで通じ合えた人たちだからという。

喋ることはすっごく好きなんですけど、すっごく下手なんですよ(笑)。擬音ばかりで。「とにかく良いの!」「格好良いんだよ!」「アツいんだよ!」みたいな表現ばかりで、全然伝わらないって言う(笑)。熱意だけは伝わるらしいんですけど。

━━ ははははは(笑)。

ちゃんと文章として成立することを言えてるのか、すっごい不安ですけど(笑)。

━━ いえ、絵を描くことの楽しさ、怖さ、その中に見える岸野さんならではの頑固さが見れて、とても面白かったです。では、今日はありがとうございました!

僕は正直、最初に岸野さんとお話をした時点では
「あぁ、ものすごく順風満帆な方だなぁ」という印象を受けていました。

挫折もなく、早期に合格したオーディションをきっかけに
様々なイラストの仕事へ踏み出している。
特別な目新しい夢を目指しているわけではなく、着々と自分の領域を広げている。
言葉が悪いと思うのですが「恵まれている人」という印象すら持っていました。

でもこうして、彼女が話した言葉を
一つひとつテープから文字に起こしていく作業をしていると、
ふと「怖い」という言葉の多さに気づきます。

そして、その「怖い」という言葉を自ら打ち消さんとする、
自分の絵に対する静かなこだわりが聞こえてきました。

「怖くても、断ってしまったら、何も出来ないよなと思って。」
「作品が世に出るまで、全然仕事の話は出来ないんです。」

怖くても、決してうしろを向かず、前へ進む姿勢。
流されずに、自分の好きなもの・感性を何よりも大事にする。

きっと、彼女の絵が言葉を飛び越えてノスタルジックな感情を伝えてくるように、
彼女自身も、自分の言葉を飛び越えるほどの「絵に対する情熱」を持っている。

誰にも負けない気力があり、人一倍頑固なのだと思います。
そしてそれこそが、彼女の絵をここまで魅力的なものにさせている根源なのでしょう。

表現者の世界における「プロ」と「アマチュア」の垣根は、やはりどんどん薄まりつつあります。
でも、彼女の持つ「静かなこだわり」は、間違いなく彼女のみが持つ唯一無二のものであり、
それが彼女自身を、そして彼女の描く絵を、日々輝かしているのだと思いました。

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